「中小企業の《経営論》」第1回:背中を見せたがる社長とそうでない社長 画像 「中小企業の《経営論》」第1回:背中を見せたがる社長とそうでない社長

マネジメント

 中小企業の場合、大企業に比べて経営者と現場の距離は圧倒的に近いことが多く、会社のエース技術者や、エースの営業パーソンが社長自身ということも多いのではないでしょうか。そうやって、自分の背中を見せるというスタイルで、会社全体を引っ張っている経営者は実際に多いですし、また、そう有らねばならないと考える人も、これまた多いように思います。

 特に現場経験からたたき上げてきた社長ほど、「俺についてこい」という態度を取らなければならない、社員を不安にさせないために弱みを見せてはならない、常に先頭を走らなければならない、などと考えています。また、社長がこういう価値観を持っている会社では、その配下の管理職たちも、同じリーダー像のイメージしかなく、誰も彼もが、「リーダーは背中を見せなければならない」「先頭に立たなければならない」と思い込んでいます。

 しかし、私が仕事を通じてお付き合いしたある会社の社長に、これとは正反対の方がいらっしゃいました。技術系の会社で、現場の技術者たちの頑張りで利益を上げている会社でしたが、この社長は現場の技術に関わることが一切できません。また営業活動でも先頭に立つことはありません。

 こんな社長であれば、社員から「あの人は何をやっているんだ?」「何の役に立つんだ?」など、“仕事ができない社長”と言われてしまいそうですが、この社長はまったくそうではありません。全社員から認められ、みんなに尊敬されています。

 その理由は、とにかく腰が低く、常に現場を立て、社員とのコミュニケーションを大事にしているからです。

 コミュニケーションの中身は単なる声掛けに近いですが、社員まんべんなく、しかも頻繁に話しかけます。また、社員を食事や飲み会によく誘います。誘う頻度は偏らず、変な強制もせず、費用は社長のポケットマネーです。「自分は役に立たないから、せめてこのくらいは」などと言って、いろいろ社員の話を聞いています。

 一見すると仕事に関係なさそうな活動ですが、このおかげで、ある社員が誰にも相談できずに抱えていた家庭の問題がわかり、すぐに担当内容や就業時間上の配慮をすることで、問題を最小限で回避できたということもありました。

 この社長は確かに実務的には役に立っていないかもしれませんが、社員の「モチベーター」という大きな役割を担っていて、みんながそれを認めています。社員たちに聞くと、「社長は良い人だからね」とか「社長が頼りないから自分たちが頑張らないと」などと笑いながら話してくれますし、社長自身も実は他に数社の経営にたずさわっている方なので、専門外の現場にはあえて口を出さないことが得策と考えた上でのことだと思います。

 リーダーシップを取るためには、部下よりも何かと優れていなければならないと思いがちですが、この社長のように、自分が万能ではないことや劣っていることを認め、自分にできることを誠実に実行することで、結果的には社員のやる気を生み、組織を率いるリーダーシップにつながっています。

 決して先頭で走っている訳ではないこの社長のやり方も、リーダーとしての背中の見せ方の一つです。リーダー論は様々なものが提唱されていますし、リーダーシップスタイルは、本来その人のタイプによって多様なはずです。「リーダーはこうあるべき」というような、過度な思い込みは禁物です。
《小笠原隆夫/ユニティ・サポート》

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