三代目社長のHANJO記:第1話――町工場再生と航空宇宙への道

2016年8月17日
ビジネスにおけるジンクス「苦労の知らない三代目が会社をつぶす」。だが一方で、改革を進め会社を成長させる三代目社長がいる。「三代目」を名乗るダンス&ボーカルグループがヒットチャートを席巻するいま、時代が三代目の活躍を求めているのかもしれない。新連載「三代目社長のHANJO記」では、新たな発想やマネージメントで歴史をつなぐ中小企業経営者の姿を伝える。第1話は「株式会社由紀精密」大坪正人社長のHANJO記である。

■自社の強みを活かした情報発信で、実家の”町工場”を再生する

――倒産寸前まで傾いた経営を、わずか10年で飛躍的に回復させた町工場がある。神奈川県茅ヶ崎市で精密部品の切削加工を行う「由紀精密」だ。1950年創業。祖父、父と二代続けて公衆電話機の内部に使われるネジを製造していた同社は91年、バブルを境に、携帯電話の普及により右肩下がりに受注を減らしていく。

 2000年代に入ると、会社の売上の8割をわずか2社が占めるほどに取引先が先細る。さらに、その取引先からの受注も徐々に減り、立て直す機会を失っていた06年。ベンチャー企業で働いていた長男の大坪正人氏が、会社を手伝いたいと帰ってきた。

問い1:実家の町工場をどのように立て直そうと思ったのですか?

創業時から使う機器も残る作業現場に立つ、由紀精密の大坪正人社長

答え1:「まずは自社の強みを認識し、コーポレートアイデンティティを一新して、会社のブランドイメージを作りました」

 前職で最後に携わったのが、M&Aした会社を立て直すコンサルタント業務だったからかもしれませんが、入社後すぐにイメージ刷新に着手しました。前職の会社の後輩のデザイナーに相談して、ロゴデザインを一新し、展示会に出展しました。

 資金繰りは本当に苦しい状態でした。もともと営業担当者を置いていないような、取引先に言われた通りに物を作る経営を続けていたので、受注が減ってからは父が個人で借り入れをして会社に貸し付けをし、経営を支えていました。

 だからこそ情報の発信に最大限、注意しました。銀行がお金を貸してくれなくなったら会社は終わりです。でも新聞に載るような企業には、銀行はお金を貸してくれる。どうしたら取り上げてもらえるか。当時は従業員20人くらいの小さな会社でしたが、会社から発信する情報はデザイナーにしっかり見てもらい、情報のクオリティが統一されるように努めました。
<その結果は・・・>
いまでこそ、銀座の百貨店「和光」に大坪社長が企画から携わった純国産の1千万近い腕時計が置かれ、その過程が書籍になり、新聞に社長のコラムが連載されるなどメディア露出の多い由紀精密。しかし、同社ホームページの「ニュース」の欄の07年~09年をぜひ一度見てほしい。最初の4年間でいかに知恵を絞ったか、情報発信と立て直しのヒントが隠れている。同社の代名詞「『研究開発型』町工場」は、言い得て妙だ。

時計の最重要パーツの「天真」。一番細い両端部でわずか径100ミクロンだという

■自社の強みを見極め、ゆっくり着実に舵を切る

――公衆電話機の部品を細々と作っていた由紀精密が、後継者の長男が入社してから10年目になるいま、目を見張る飛躍を見せている。直近の14年期(9月決算)の売上は3億で、売上の50%以上は航空宇宙分野の3割と、医療機器の2割が支える。かつて大半を占めていた電気機器の割合は減ってきている。

問い2:なぜ、電機業界から脱却し、宇宙・航空分野や医療分野に参入したのですか?

答え2:「取引先に行ったアンケートが全てのきっかけでした」

 昔はビデオカメラを開けるとメカが多かったですが、メモリーカードへの移行など、電気機器の部品で動くものってだんだん減ってきましたよね。入社当初、このまま電機業界の中にいたら仕事がどんどん減ってしまうと思い、自分たちの強みを見出したいと、お客様にアンケートを取りました。
自分たちの強みを伸ばすために、自分たちが見えていない強みを知りたかった。そうすると、品質への評価がすごく高かった。なので、品質が要求される分野といえば、飛行機や宇宙、医療機器かなと思いました。母方の祖父が飛行機乗りだったので、その縁も感じて、いつかは飛行機の部品を作ってみたいと思いました。

由紀精密が130を超える部品を担当した、超複雑機構「トゥールビヨン」搭載の国産腕時計

<その結果は・・・>
同社では大坪社長の入社3年目の08年に、ISO9001認証取得。自社の技術力を示すためだろう。自社ホームページとは別に、客の視点に立ち、より早くより安い製品や発注の仕方を提案、解説するサイト「切削加工.net」も立ち上げた。フランスの航空宇宙展にも同年初めて出展したという。

 その会場でJAXA人脈とつながり、小型衛星の仕事を請け負うようになり、09年には国際ロボット展に出展。さらに切削加工ドリームコンテストで金賞という他者からの評価も得た。翌年になると年初から立て続けに、「由紀精密工業」から「由紀精密」に社名変更、3次元CAD導入、航空宇宙用部品向けJIS Q 9100認証の登録と続く。
地道な挑戦の積み重ねをして、着実に受注を増やしている。いま同社は航空機エンジンメーカー大手の部品を扱う認証も受けている。08年から築いた宇宙衛星人脈はさらに広がり、将来、宇宙空間のごみを拾い集める小型衛星を打ち上げる会社と資本提携を組む。10年前に目的地の一つに指示した医療機器分野にも現在、製品を市場に投入する準備を進めているところで、「来年、再来年には売り上げの50%を医療部品が占めるのでは」(大坪社長)と話す。

 もともとある技術力をいかし、着実に固めてきた土台の上で、さらなる挑戦を続けている。
《塩月由香/HANJO HANJO編集部》

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執筆者: HANJOHANJO編集部 - HANJOHANJO編集者
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