【HJ HJ EYE:4】中小企業の未来を変えるフィンテック

2016年8月16日
 HANJO HANJO編集部が中小企業のビジネスに関わるキーパーソンに、中小企業の現在を問う「HJ HJ EYE」。今回は、クラウド経費精算サービス「Staple」など、フィンテック関連のスマホサービスを手掛けるクラウドキャスト代表取締役・星川高志さんに、フィンテックの現代的な意義や中小企業との関係を尋ねた。

■09年の欧米に見たフィンテックの兆し

――私が中小企業経営者と会話する中で、クラウドキャストの「Staple」を耳にする機会が何度かありました。今まさに注目が集まっている実感があります。星川さん自身はその理由をどのように考えていますか。

星川 ここ数年の動きとして、業務アプリにスマホやウェブのテクノロジーがすさまじい勢いで浸透しています。その流れは会計システムにもいえますが、フロントエンドを見ると、まだまだ非効率なものが多いのが現実です。スモールビジネスでは現在に至るまで紙と表計算ソフトを使った経費精算が一般的ですが、電子帳簿保存法の規制緩和がひとつの潮目になりました。来年よりスマホで撮影した領収書を原本として利用できるようになり、その中で経費精算というカテゴリーが注目されているのを感じています。

――経費精算サービス「Staple」は14年9月にローンチし、15年には アプリや交通系ICカード連携機能を提供しています。日本におけるフィンテックブームと合致する最適なタイミングでのリリースとなりました。狙っていた部分はあったのでしょうか。

星川 私自身は09年からiPhoneアプリの開発に関わっていますが、その時に作ったのがファイナンス系のアプリです。当時は言葉としては表されていなくても、フィンテックという存在がイギリスやアメリカで確実に動き始めていました。ロンドンやニューヨークなどの金融都市では、エコシステムと呼ぶべき人、物、金が集まっていましたが、東京はそのクラスターのひとつとしてフィンテックの集積地になるべきだと考えたのです。

――今ではテレビや新聞・雑誌などで、フィンテックの文字を見ない日はありません。このような状況に企業はどのように対応すればいいのでしょうか。

星川 私はかつてマイクロソフト社に所属していましたが、そこでも紙とエクセルによる経費精算で、そのための時間が結構かかっていました。また、起業後スタッフが5名を超えたあたりで経費精算が非常に面倒と感じました。従業員や経営者は本来なら生産的なことに時間を使うべきです。非効率の塊、そんな状況を解決したいと考えたのが、その後の経費精算サービス開発のきっかけの一つでした。

クラウドキャスト代表取締役 星川高志さん

■フィンテックはオープンイノベーションの教科書

――フィンテックとは「ファイナンス+テクノロジー」の造語ですが、この組み合わせが生み出すサービスは過去にも存在していました。それは、今フィンテックと呼ばれているものとは、何が決定的に異なるのでしょうか。

星川 このカテゴリーにおいて、過去と現在における大きな違いはスマホなどのユーザー中心のテクノロジーとスタートアップの存在です。金融の世界でコアなIT事業を立ち上げるには、専門知識が必要です。そこで生まれたのが既存のSIのようなシステム会社と金融業のパートナーシップですが、ただそれだけではフィンテックとは言えないと、私は考えています。スタートアップが主役となり、そこにオープンイノベーションが生まれるという過程こそが、フィンテックという存在を位置づけるために必要だと考えています。

――“自由を我らに”ではないですが、“金融を我らに”といった意識はそこに存在するのでしょうか。

星川 それは面白い質問ですね。アメリカではテクノロジーがシリコンバレーを中心にうまれますが、ニューヨークやロンドンのフィンテックは、破壊的イノベーションというよりは、むしろ既存のプレイヤーとコラボレーションして、ユーザーエクスペリエンスを良くしたいという考えが多いように思えます。ニューヨークやロンドンといった金融シティのフィンテックプレイヤーには、既存の枠組みをテクノロジーでより良くしたいという思いがありました。現在のフィンテックは両者の意図が合致した結果で、まさにオープンイノベーションの教科書みたいな展開といえます。

■中小企業の日常を支える経費精算サービス

――フィンテックは、横文字から受ける印象かもしれませんが、中小企業の経営者にとってまだまだ遠い世界の話のように感じられることがあります。

星川 フィンテックが包含するカテゴリーは、恐らく皆さんが想像しているよりも広大です。中小企業の経営者に近いところでは、会計や経営支援に関わるアプリやクラウドサービスがそれに当たります。家計簿や会計クラウドの間をつなぐ、ほぼ同様のテクノロジーで作成したものに当社の経費精算サービス「Staple」がありますが、これは中小企業の利便性を直接変えていけるフィンテックだと思います。

――「フィンテックが中小企業を変える」という考えを、星川さんが持つに至ったきっかけは何なのでしょうか。

星川 経営者は中途半端では事業を成功させられません。技術やクリエイティブ、人間的な何かが飛びぬけている人が成功者になると、私は考えています。ただ、統計データを見ると、開業から2年目を生き残れる、企業の生存率は50%足らずです。いわゆる“2年目の死の谷”ですが、その原因となっているのがキャッシュフローの管理です。いくら技術があっても、資金繰りを知らなければ成功はありません。かつては金融業者が経営者にアドバイスをしていましたが、今では規模が小さすぎるからと相手をしなくなりました。そこに「Staple」が貢献できないかと考えたのです。

フィンテックを通じて個人事業主や法人の経理業務を支援する星川さん。一般社団法人FinTech協会の理事として、国内におけるフィンテックの普及にも努める

――銀行でも中小企業を自転車で周るような営業はいなくなったという話を聞きます。そんな時代だからこそ、ITが“赤ひげ先生”のように、つぶれそうな中小企業を診断できる存在になれるかもしれませんね。

星川 これも統計データ上の話になりますが、会計ソフトを導入している中小企業は全体の1/3です。本来は日々の経営の状況を把握するためのものですが、実際のところ多くの小さな企業は税務申告の時にしか利用していません。資金繰り表のテンプレートは銀行のダウンロードサイトなどにもありますが、使い方の説明が難解なこともあって、飛び抜けている会社ほど会計リテラシーが低く、使っていないようです。

■「Staple Pulse for HANJO HANJO」が会社の未来を予測する

――中小企業の力になりたいという星川さんの思いは、中小企業を応援するプラットフォームであるHANJO HANJOの考えと同じものです。それが、今回、共同で「Staple Pulse for HANJO HANJO」のリリースへとつながりました。「Staple Pulse for HANJO HANJO」には、いくつもの利便性がありますね。

星川 「Staple Pulse for HANJO HANJO」はクラウドサービスであるため、経営者のほかに経理担当が複数いる場合でも、ファイル共有のようにバージョン管理の必要がありません。何より決定的に違うのが、過去ではなく、未来のキャッシュフローを予測できることです。

――経営者にとっては将来を考えるきっかけになるわけですね。

星川 経営の予測というのは、ものづくりに没頭していると面倒に感じるものです。そこをAIなどのテクノロジーで解決できるのが、これからのフィンテックになると思います。

――中小企業の方々に使ってもらうために、ソフトを開発する中で星川さんが大切にしていることは何ですか。

星川 やはり使いやすさですね。固定費を入力して、そこに変動費を乗せると、将来のキャッシュフローがどうなるかがカンタンに分かることが重要です。もし資金が無くなるとしたら、数ヶ月前から猶予を持って動けるような、その気づきを支援できるツールでありたいと思います。

――それは、中小企業の経営者や経理担当者にはありがたいですね。インターフェイスなどで具体的な取り組みはあるのでしょうか。

星川 例えば「勘定項目」などの会計用語は使わないようにしています。機能の多さは、あまり大事とは思っていません。それよりも、操作を迷わせない仕組みが重要です。

クラウドキャストでは「Staple」のほか、法人向け経費精算アプリ「Staple Team」、会計取引入力アプリ「bizNote for 弥生オンライン」などを展開

――最近ではクラウドを利用した会計ソフトも増えてきました。コストパフォーマンスも選択基準として大きいようです。

星川 我々の最大のライバルは、紙と表計算ソフトです。表計算ソフトは既に別の目的でライセンスが購入されているので、実質は無料と言ってよいでしょう。なので、「Staple Pulse for HANJO HANJO」のようにソフトは無償で提供して、他にビジネスモデルを作るというのが、今後は重要な考え方になってくると思います。

<Profile>
星川高志(ほしかわたかし)さん
クラウドキャスト株式会社 代表取締役CEO
1972年生まれ。マイクロソフトにおいて新規事業を立ち上げたほか、米国本社直属の開発部門で、同社初となる法人向けモバイルアプリ検証部門をリード。オフショア開発のマネジメントを経験後、SQL Serverの開発部門を統括。在職中の09年に青山学院大学大学院国際マネジメント研究科に入学。11年に同大学院を卒業し、経営管理修士(MBA)取得。同年クラウドキャストを設立。一般社団法人FinTech協会の理事も務める。

■ 取材を終えて

フィンテックとは一体、誰のための技術なのだろうか? それはあらゆる産業に影響を及ぼし、新しいビジネスモデルを生み、そしてあらゆる人々に関わるものであるという。様々なメディアがフィンテックを希望の星のようにとりあげる。だがそれは中小企業にとってどんな具体的なメリットをもたらしてくれるのだろう? フィンテックは中小とは縁遠い存在ではないのか? そんな私の疑問を打ち消してくれたのが星川さんだった。テクノロジーはその使い途を考える人間がいなければ、決して社会的な価値や継続性を持ち得ない。「中小企業経営者のために」という星川さんの思いを今回、HANJO HANJOが共有できたことは幸運だったと思っている。

●関連リンク

執筆者: 加藤陽之 - HANJO HANJO 編集長
コンピュータ関連の出版社からキャリアを始め、カルチャー雑誌などの編集長を歴任。これまで数多くの著名人をインタビューしてきた経験を活かし、HANJO HANJOでは中小企業経営者の深く掘り下げた話を引き出し続ける取材の日々。

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