~社内コミュニケーションの秘訣~初めは遊びでも出口が仕事につながればいい/BFT

2017年6月19日
 時代を生き抜く強い企業とは何でしょう? すばらしい商品やサービスはもちろんですが、そこにいたる会社のなかでの社員どうしのコミュニケーションが、本当はいちばん大切なのかもしれません。仲間と笑い合える会社が、今元気です。「小さい」「予算がない」「時間が足りない」といった悪条件を、彼らはどんな発想で乗り越えていったのか? 明るく楽しい会社やリーダーの活動から解き明かしていきます。第五回は、インフラ基盤構築やシステム開発を手がけるIT企業、「株式会社BFT」の小林道寛社長です。
◆第五回 小林道寛さん(48歳)◆
1991年に國學院大學を卒業後、株式会社フジミックに入社。その後2004年に株式会社BFTの前身である株式会社ビジネスフローテクノロジーズに入社、2008年の社名変更を経て2015年に代表取締役社長に就任。

BFT 代表取締役社長 小林道寛さん

■不足し続けるIT人材

 情報技術の発展やAI(人工知能)、VR(仮想現実)の登場により年々拡大を続けるIT業界だが、その一方でIT人材は慢性的に不足している。経済産業省が2016年に発表した調査結果によると現時点で17万人、2030年には78.9万人ものIT人材が不足するといわれており、今後いかに優秀な人材を確保するかがカギとなっている。しかしIT業界には「キツい・厳しい・帰れない」という“新3K”のイメージや、過重労働も指摘されている。

 そんな中で仕事とプライベートの両立、いわゆる“ワーク・ライフ・バランス”の向上に着目したのが株式会社BFTだ。2017年4月からは社員の“仕事”と育児・趣味・学習・休養といった“仕事以外の生活”の両面を充実させることを目的とした「BFTワークライフバランスプロジェクト」を始動、社員同士のコミュニケーションの確保や金銭面での不安を払拭する制度の導入を行っている。

「コミュニケーションサポート」を使っての麻雀大会。いま性別を問わず人気なのが麻雀とのこと。社員一人につき、毎月6千円、年間7万2千円が課経費として支給されている

■ワーク・ライフ・バランスを考え始めたきっかけ

 株式会社BFT代表取締役社長の小林道寛氏が、BFTの前身である株式会社ビジネスフローテクノロジーズに取締役部長として入社したのが2004年。それ以来会社を拡大するために仕事中心の生活を続け、「別に行くところもないし、やることもない。かといって家にいるのもイヤ」「仕事のことを考え続けることで安心感を得る」との理由から積極的に休みを取るようなことはなかったという。

 そんなある日社員の一人と交わした何気ない雑談が、小林氏の意識を変えることになった。その社員は「休みの日にスポーツをして、頭の中から仕事のことをきれいに追い出すことで、翌週にまた高い集中力で仕事に取り組むことができる」のだと話してくれた。

 ずっと仕事一筋でこのような発想がなかった小林氏は、このことを機に社員のストレス解消や生産性を高めるための方法について考えるようになったそうだ。そして生まれたのが社員のワーク・ライフ・バランスをサポートする制度『BFTワークライフバランスプロジェクト』だった。

■「BFTワークライフバランスプロジェクト」の特色

 「BFTワークライフバランスプロジェクト」には、高額なベンダー系資格取得のための費用をサポートする「スキルアップサポート」、課内のコミュニケーションを円滑にするための交流会費用をサポートする「コミュニケーションサポート」、遠方の客先勤務になった場合の引っ越し費用をサポートする「ムービングサポート」などユニークかつ金銭面でのサポート制度が充実している。

 中でも特に評判がいいのが、プロジェクト終了後に2週間以上の休暇を取得できる「フリーバケーション 2week+」だ。常に忙しく休みが取れないというイメージが強いIT業界だが、実はプロジェクトによって繁忙期と閑散期がある。そこでBFTでは、一つのプロジェクトが終わったら次のプロジェクトが始まるまで長期休暇を取ってリフレッシュし、社員の生産性やモチベーションを保つことができるように制度化したというわけだ。

 この「フリーバケーション 2week+」も、ある社員がプロジェクトの終了後に1ヶ月の休暇取得の話を小林氏に持ちかけてきたことがきっかけだそうだ。もちろんそれだけ長期の休暇を取っても、生産性に問題がないことは試算した上で制度化をしている。

 制度を導入したことにより病欠などの突発的な休暇取得から、まとまった期間を計画的に休む方向へシフトしてきたという。プロジェクト進行中にメンバーが突然休んでしまうと業務が滞ってしまいがちだが、このように休暇に対する認識が変わってきたことで、会社は生産性を落とさず、社員はしっかり休んでリフレッシュできる。お互いにとって良い結果が出ているようだ。

「長期休暇はもともと取ろうと思えば取れたんですけど、『フリーバケーション 2week+』って名前をつけると、みんなそういう制度があると認識するんですね。制度があるなら使おうって思うようになって、それで休みが取りやすくなったんですね」

エアリアルも人気。社員が集まる機会を金銭的に後押しし、コミュニケーションを活性化させることで、チームの信頼関係も高まっていく

■良いコミュニケーションが良い仕事をつくる

 このように社員側から上がってきた要望を経営陣が精査し、原資の確保や生産性の保持ができることを確認した上で、手を付けられる部分から積極的に制度化する。つまり社員と経営陣のコミュニケーションがうまく取れている結果として「BFTワークライフバランスプロジェクト」は生まれたともいえる。

 小林氏によるとBFTでは“コミュニケーション能力“をとても重要視しているという。例えば新しいプロジェクトを開始する場合、プログラムを書くことができる人だけを大量に集めてもプロジェクトを回すことはできない。データベースが得意な人、ネットワークに詳しい人、OSの担当者などそれぞれ得意な分野が違う人達を集めてチームを作る。そのとき「誰が何を知っているか」を知っておくことが、プロジェクトを円滑に回していく上で必要な能力なのだそうだ。

 そして、そういう情報は日頃からメンバー同士のコミュニケーションを密に取っていないとなかなか得られないもの。そのため「BFTワークライフバランスプロジェクト」にはチーム内のコミュニケーションをサポートする「コミュニケーションサポート」が制度として設けられている。コミュニケーションを取るのは飲み会による“飲みニケーション”だけとは限らない。プロジェクトのメンバーでヨガ体験をしたり、麻雀大会を開催したりと、参加するメンバーが楽しみながらコミュニケーションを取ることを推進している。

 ところでIT業界というと一人のスーパーエンジニアがチームを引っ張る・・・というイメージもあるが、BFTにおいてはそうではなくメンバー同士の繋がりによって高い品質のものを作り続けている。

「どれだけ優れたエンジニアがいても、そのエンジニアが持っている知識が交換可能なものでないと会社全体としての組織学習にはつながっていかないんです」

「お客様から『すごく技術の尖った人がいますね』といわれたことは実は一度もないんです。でも作っているものの品質は相当高く評価していただいていて、お客様から不思議がられるんですよ(笑)」

 ひとりのスターが引っ張るのではなく、チームのコミュニケーションが優れたサービスや製品を生み出す好例といえそうだ。

■コミュニケーションの円滑化には自発性が必要

 組織においてコミュニケーションの重要性というのは誰もが認識していることだが、経営陣がどんなに口酸っぱく「コミュニケーションが大事」と話しても社員にはなかなか伝わらないのが現実だ。会社主体で運動会のようなイベントを開くケースも増えているが、せっかくの休日を会社のイベントでつぶされるなんて・・・と敬遠する社員も少なくない。

「最初からコミュニケーションを高めようとか難しいことを考え始めると、そこに変な強制力が働いてしまいます。社員によっては集まること自体が嫌だとか思ったりとか、そういうのもきっとあるんじゃないかと思いますね。そうじゃなくて、まず社員が自発的に楽しい場にしようぜと思うことが大切なんです。そこに集まること自体を苦痛と感じる人がいない、そんなところから始めることが無理がないし楽しい気がします。入口は遊びの気持ちだとしても、出口が仕事につながってくれれば良いのです」

 社員が自発的にコミュニケーションを取れる仕組みを作り、会社はそれをサポートするに徹することこそ、社内コミュニケーションを円滑にするための秘訣といえそうだ。
(インタビュー/加藤陽之 構成/川口裕樹)

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執筆者: HANJOHANJO編集部 - HANJOHANJO編集者
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