~HJ HJ EYE:3~経営難の中小企業をとことん支援する

2016年7月4日
HANJO HANJO編集部が中小企業のビジネスに関わるキーパーソンに、中小企業の現在を問う「HJ HJ EYE」。今回は、昼夜を問わず365日相談を受け付け、とことんまで経営立て直しにつきあう事業再生支援手法 “板橋モデル”で数々の中小企業を救ってきた、板橋区立企業活性化センター センター長の中嶋修さんに話を伺った。

■中小の現場を支援する仕組みが機能していない

――全国に中小企業の支援団体はいくつもあるわけですが、実際のところ、なにか「お役所仕事」的なレベルのところがほとんどのような気がします。その認識は間違いでしょうか。

中嶋 国や自治体、銀行などの支援機関は数ありますが、その多くが機能していないというのが実態です。モデルケースとしての成功例にばかり光が当たるなか、現実では倒産の危機にある企業がいくつもあります。こうした底辺で苦しむ中小を支援するのが、われわれが行ってきた活動なんです。

――たとえば、どんな支援機関が機能していないのですか。

中嶋 一番大きいのが金融機関です。不良債権問題が騒がれてから融資に臆病となり、顧客を査定や決算書だけで評価するようになりました。紙の上だけの判断で、融資を行おうとしません。

板橋区立企業活性化センター センター長 中嶋修さん

――不良債権問題というと、バブル崩壊の頃ですね。ずいぶん前の話になると思いますが。

中嶋 これはバブル崩壊から何十年も続いていることです。一昔前は社長の人柄などを見て、営業担当者が現場判断で融資を決めるようなケースもありました。しかし、近年では現場の営業担当者には権限がなく、融資については全てを本部が判断しています。ただ、マイナス金利に転換してからは銀行の事情が変わりつつあり、こうした中小企業を融資先として検討し始めています。そこで問題になるのが企業に対する“目利き能力”なのですが、問題は事業評価をきちんと行える営業担当者が育っていないことですね。

■「ていねいな支援」の中味が問題である

――中嶋さんの今までの取り組みが、今では“板橋モデル”と呼ばれるようになりました。

中嶋 わかりやすくいうと中小企業を1社1社ていねいに支援しようということです。リーマンショックの際に金融庁から経営改善への指示が出ました。それで、板橋区では初となる経営改善チームが設立され、私が担当になったのがきっかけとなっています。

――「ていねいな支援」が全国的に新しく感じられたとは、驚きです!

中嶋 これまでの支援といえば、たとえばホームページを充実させるなど、型にハマったような取り組みが中心でした。もちろん、それは経営の向上に繋がりますが、悪化した経営を改善させることには積極的ではなかったと思います。もしも、金融円滑化法がなかったら、倒産していた企業は数多くあったと思います。

――中小企業が個別に抱える問題に対応できていないわけですね。個別という意味では、支援機関に所属するコーディネーターの能力に左右されそうです。

中嶋 コーディネーターの活動における成果を評定しない、活動の有無すら問わないような支援機関はダメですね。例えば、板橋モデルをモデルケースとしている「よろず支援拠点」では、全国からチーフコーディネーターを募集しています。ここでは補助金という形ではなく、コーディネーターの人件費に予算を付けています。そのため、コーディネーターは業務をきちんとこなしますし、クレーム回避にも真剣に取り組むわけです。

――コンサルタントや中小企業診断士など、その他の支援機関を頼りにする中小企業も多そうです。

中嶋 コンサルタントや中小企業診断士でも、たとえば資格を取得しただけで社会経験がないような人は、苦境に立つ中小企業を本当に救うことは難しいと思います。現場経験がなければ会社の実態を本当の意味で把握できず、意味のある事業計画が立てられないのではないでしょうか。また、赤字ベースの中小企業を救うには、金融機関にツテがあることも重要となります。

■事業計画と資金調達のためのネットワークを作る

――中嶋さんに相談に来られるのは、経営がひっ迫している企業が多いと聞きます。どのような相談を受けることが多いのでしょうか。

過去に数百社の経営改善支援に取り組んできた中嶋さん。全国に相当数ある経営不振企業に対し、支援専門家として経営改善ができる人材が不足していると語る

中嶋 一番多いのは資金繰りに関する相談です。経営が悪化して、銀行の融資も受けられず、その解決策がわからないという経営者の方は大勢いらっしゃいます。中には、事業承継についての相談もありますが、それも赤字や借金があるため、親族に会社を渡せないという悩みが多いです。

――そこまでの苦境に陥った企業を再生させるのは難しそうですね。そんな状態では、もう会社単独では何をしても解決できなさそうな気もしますが。

中嶋 いきなり業績をV字回復させるのは難しいので、まずは売上を伸ばさなくても、赤字を出さない状況を作ることが先決です。多くの経営者はこうした経営改善の計画が立てられずに困っているので、それをわれわれが作って、ノウハウを学んでいただきます。われわれは財務省と親しいので、金融機関の担当者を同行した上で、具体的な経営改善の方法を検討できることも強みですね。

――事業計画について相談する段階から、金融機関における融資の可能性を引き出せるのが、板橋区立企業活性化センターの強みになっていると。

中嶋 われわれは前身である「板橋区創業支援ネットワーク」の頃から、事業計画書の作成、資金の調達、販路の拡大などの支援を行っていました。今ある人脈のベースは、この時に作られたものです。

――長年の実績が中小企業を本当の意味で助ける支援ネットワークを生み出したということですね。そこには、中嶋さんご自身の熱情もあったのではないでしょうか。

中嶋 もちろん、それは否定できません。しかし、ただひとつ言えるのは、このような事業は公務員には難しいということです。転勤や責任の問題があるので、私のような外部の人間だからこそ実現したのではないでしょうか。

経営改善から融資支援まで、中小企業の様々な相談に応える板橋区立企業活性化センター

■ダメな中小企業を追い出しても、税金で損失を被るだけ

中嶋 「ダメな会社は潰せばいい」という意見を聞くことがあります。ですが、会社が倒産すれば元社員からの所得税や地方税の支払いはなくなり、国が失業保険や給付金を支払うことになります。この収支について気づいていない方は、意外と多いのではないでしょうか。

――それはとても合理的な話ですね。経営に苦しむ中小企業を助けることの重要性がよくわかります。

中嶋 信用保証協会の発表によると、全国の中小企業が利用している保証利用額の残高は約30兆円あるといいます。経営不振の企業は、そのうち約20%でしょうか。つまり、こうした企業を倒産させると、約6兆円の融資が焦げつくことになるんです。

――それを知っていれば、安易にダメな企業は倒産させろと言えませんね。

中嶋 私たちは事業再生と並行して、企業の創業支援を手掛けていますが、成功する企業は多くありません。むしろ8割ぐらいの企業が倒産しているのが現状です。新陳代謝という言葉は耳触りがいいですが、本当に必要なのは企業を生かすための支援体制ではないでしょうか。

<Profile>
中嶋修(なかじまおさむ)さん
板橋区立企業活性化センター センター長
1948年生まれ。法政大学経済学部卒。06年に板橋区立企業活性化センター センター長に就任。以降、板橋区創業支援ネットワーク、板橋区経営改善支援チームの事務局長のほか、中小企業基盤整備機構「よろず支援拠点」本部アドバイザリーボード委員長など多方面で中小企業支援活動を行っている。

■ 取材を終えて

グローバル化による市場原理主義は、取引先の海外移転や海外製品との競合といった、中小企業が受ける直接の影響だけでなく、彼らを見る周囲の視線も変えた。「ダメな企業は潰せばいい」という意見はその反映だろう。しかし倒産と引き換えに税金を含む巨額の金が無駄になることを知る人は少ない。「新陳代謝ではなく、支援強化を」と語る中嶋氏だが、かつて自ら会社を潰したことがある。400億の借金とともに父親から会社を継承、最終的に倒産、自己破産にまでいたった経験が、とことんまで経営の立て直しにつきあう「板橋モデル」の根底をなしていることは確かだろう。

●関連リンク

執筆者: 加藤陽之 - HANJO HANJO 編集長
コンピュータ関連の出版社からキャリアを始め、カルチャー雑誌などの編集長を歴任。これまで数多くの著名人をインタビューしてきた経験を活かし、HANJO HANJOでは中小企業経営者の深く掘り下げた話を引き出し続ける取材の日々。

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