地方創生のカギをにぎる「プロ人材マッチング」/第1回 キーマンを招き入れる

2018年1月15日
★地方創生のカギをにぎる「プロ人材マッチング」 第1回「キーマンを招き入れる」
 働き方改革や兼業・副業が2018年のキーワードとなるなか、首都圏の大企業で管理職や専門職を経験した、いわゆる「プロフェッショナル人材」を地方の中小企業で採用する動きが注目を集めている。東京への一極集中や少子高齢化による地方の人口減少や、地方産業の衰退、雇用などの課題が山積みとなっている中、いくつかの自治体では地域の活性化に成功しており、地方創生の観点では見逃せないムーブメントと言えるだろう。
 人材採用にあたってはネットでのマッチングが飛躍的に伸びており、面接等のための遠隔地への移動といった障害も過去の話になりそうだ。
 今回の特集で話を聞くのは、地方企業と首都圏のプロ人材とのネットでのマッチングを手がける株式会社ビズリーチの加瀬澤良年さん。即戦力人材と企業をつなぐ転職サイト「ビズリーチ」や求人検索エンジン「スタンバイ」を活用して各地域の採用支援を行い、また、内閣府のプロフェッショナル人材戦略拠点事業において約40道府県のプロ人材拠点のサポートを行う中で、プロ人材と地方創生の関係を見つめてきた。人材の流動性が日本でもようやく生まれつつあるいま、何が必要なのかを3回にわたって紹介したい。

株式会社ビズリーチ 地方創生支援室 地方創生プロデューサー 加瀬澤 良年氏

■プロ人材の地方転職は「お金よりもやりがい」

――地方創生のための採用支援はいつ頃から始められたのでしょうか。

2014年からです。石破地方創生担当大臣(当時)の発言が起点となりました。それまでビズリーチでは、首都圏の企業様にご利用いただくことが多く、地方創生はまだ視野にはありませんでした。

ーービズリーチから見て、当時「地方創生」はどんな状況だったのでしょうか。

地方創生を語る上で重要な単語があります。「まち・ひと・しごと創生」です。これは言い換えるなら人口減少の解決目標を意味しています。2060年に日本の人口を1億人程度に維持したいという目標の中で、地方において「生みやすい・育てやすい社会」の実現を促し、自分らしい働き方・住み方・暮らし方を実現させることで、人口減少に歯止めがかかることが期待されていたのです。

それが2014年の石破大臣の発言によってより具体的になりました。例えば、2014年に発表された「まち・ひと・しごと創生総合戦略」では、KPI(重要業績評価指標)として、2020年までに首都圏から地方への転出を4万人増やす、逆に地方からの転入を6万人減らすというものがあります。2013年の東京への転入、特に若年層が多いのですが、これは10万人を超えていました。東京の人口が自然に10万人増えていたんですね。また、地方における若者30万人分の新しい雇用を創出することなど目標達成のための具体的な数字が発表された時期でもあります。

ちょうどその頃ビズリーチの利用企業様で地方企業が急増した時期と重なりました。これにより当社でも地方創生に関して何かできるのではという感覚を得ました。なぜ地方企業のご利用が増えたのか調べてみたところ、人材紹介会社の多くが東京にあるため、地方企業は即戦力人材の採用を行う手法があまりないことがわかりました。先進的な地方企業が即戦力人材を採用するために、人材紹介会社を活用するだけでなく、首都圏との「距離」というハンディキャップを解決できるインターネットを活用して採用活動に取り組み始めたのです。

2014年に内閣府が開始した「プロフェッショナル人材戦略拠点事業」。内閣府が東京を除く46道府県にプロ人材拠点を設置、企業のビジネスの種を拾い人材求人要件として可視化。人材ビジネス事業者と結びつけることを目的としている(内閣府プロフェッショナル人材戦略ポータルサイトより)

ーーなにをきっかけに地方創生の採用支援を始めることにしたのですか。

「ビズリーチ」はインターネット上に企業と求職者が直接やりとりできるプラットフォームを提供しており、地方の企業が即戦力人材を直接スカウトすることができます。社長自らがメールを送ることも多く、求職者であるビズリーチ会員様も地方企業からのスカウトメールに興味をもって返信し、予想以上の採用実績が見られるようになってきました。その要因を調べてみると、会員の方々の転職で重視する点が、どちらかと言うと「給与よりもやりがい」にシフトしているためであることがわかりました。実際、アンケートを取ってみたところ、回答者の7割の方々が「やりがいあれば地方転職を前向きに検討する」と回答しました。その後実施したアンケートでは約1/3が「場所は問わない」と回答し、Uターンではなく、縁もゆかりもない土地でも良いということがわかりました。

約7割の回答者が「やりがいがあるポジションであれば、転居して別の地域に勤務することになっても転職を前向きに検討する」と答えた(2015年5月「首都圏勤務するビズリーチ会員 1,706(平均年収940万円)地方転職への興味・意向に関するアンケート調査」より)

首都圏から地方への転職決定者の伸びは2014年から16年の2年間で約2.2倍に増加した(ビズリーチの資料より)

地方の利用企業数の伸びは2014年から16年の2年間で約2.7倍に増加(ビズリーチの資料より)

――7割というのは相当な数字です。多くの人が、地方に何らかの貢献をしたい、地方で働きたいと思っていたわけですね。

このことを受け、会員様のご希望に応えなければならないという想いと、地方企業におけるやりがいあるポジションの開拓というビジネスの観点から地方創生を事業のひとつとして考えるようになったのです。

■地方の活性化にはキーマンの存在が欠かせない

――地方企業とのマッチング事業は何から始められたのですか。

2014年に内閣府が「プロフェッショナル人材戦略拠点事業」を開始しました。この事業では、内閣府が東京を除く46道府県にプロフェッショナル人材戦略拠点(略称:プロ人材拠点)を設置し、企業のビジネスの種を拾い、それを人材求人要件として可視化し、人材ビジネス事業者と結びつけ、企業とプロフェッショナル人材(略称:プロ人材)のマッチングの実現をサポートしています。

先ほどご説明した「まち・ひと・しごと創生総合戦略」に挙げられている「若者の雇用創出」を成し遂げるには、各地域が産業発展し、新しい雇用を生み出すことが不可欠です。ですが、各地域には新しいビジネスの種や成長可能性のある事業が眠っていたとしても、事業をけん引する人材、キーマンが不足しています。つまり、地域企業は発展において人材不足が重点課題になっており、特にプロ人材と呼ばれる専門性を持った人材が不足していることがボトルネックになっているのだろうと。このような仮説の下、この事業は立ち上がりました。

各道府県に設置されたプロ人材拠点は、まさに「地域の人事部」として、採用したい人材の要件定義から採用アドバイスを行い、地域と首都圏のプロ人材との懸け橋になり、キーマンを招き入れることを期待されています。

ビズリーチでは、この事業の開始当初から積極的に協力させていただきました。これがきっかけで、各地域の企業や自治体と協業させていただくようになりました。

2014年は仕組みを作ることだけで手一杯だったのですが、そんな中、県が主導し、この仕組みを活用して積極的に企業のニーズを引き出し、求人を可視化して企業とプロ人材をマッチングしていこうと、いの一番にプロ人材拠点を設立した県があります。広島県です。また広島県では、当初からこの取り組みの成功のカギは、企業がいかに能動的に採用に取り組めるかどうかだと気づかれていました。

――広島県が最初に立ち上がったのは何か理由があったのでしょうか。

湯崎英彦知事が主導してプロ人材拠点をスピーディに立ち上げたと聞いています。また、拠点の核となるマネージャーは、拠点の先頭に立ち、企業の意識を変える重要な役割を担っています。ですが、いきなり「企業成長のためには、首都圏のプロ人材を採用することが重要です」と正論をぶつけても企業の経営者の方々が簡単に受け入れてくださることはそれほど多くありません。というのも、地域の特徴として人間関係を重視するという側面があるからです。

この取り組みをスムーズに進めるためには、地元の名士をプロ人材拠点に配置することが有効だったんですね。広島県ではこのことをすぐに理解され、早期にマツダの元取締役専務執行役員である黒沢幸治氏を人材紹介マネージャーに任命されています。他の拠点でも、非常に著名なそうそうたる方々がマネージャーになっています。

■地方の企業を動かすには成功のモデルケース作りが必要

――プロ人材拠点を主管するのはどういった団体なのですか。

それは道府県によって異なります。道府県主体で運営している場合もありますし、入札制にして外郭団体が担当する場合もあります。

例えば、広島県の場合は県主体です。「プロ人材拠点を作っただけでは、このプロジェクトは成功しないし定着しない」「広島には働く土壌がこれだけあるんだということを首都圏に向けてPRしよう」ーー黒沢マネージャーとはそんな話し合いを何度もしました。「そのようなプロ人材がいるのならぜひ会いたい」と地元企業に興味を示してもらい、「能動的に積極的にプロ人材を採用し、経営を発展させよう」と考えてもらえる好スパイラルを生むことを目標としたのです。

そんななか、Jリーグの「サンフレッチェ広島」の求人が出てきたのです。

サンフレッチェ広島の販路開拓マネージャー公募したときの記者発表会の様子。Jリーグの覇者(当時)でも経営人材が不足していること、そして、この新しい取り組みを活用して首都圏のプロ人材を採用しようとしていることが多くのメディアに報道され、県内のみならず全国に知れ渡った

――サンフレッチェ広島! それはPR効果として抜群ですね。

サンフレッチェ広島の販路開拓マネージャーをビズリーチのサイト上で公募し、記者発表会も開催しました。当時、サンフレッチェはJ1王者でした。しかし、Jリーグの覇者でも経営人材が不足していること、そして、この新しい取り組みを活用して首都圏のプロ人材を採用しようとしていることが多くのメディアに報道され、県内のみならず全国に知れ渡り、プロ人材拠点の知名度の向上に寄与しました。この件がモデルケースとなって他の道府県でも取り組みが開始しました。「積極的に広報活動を行うことで多くのメディアに掲載され、企業の信頼に結びつける→地元企業が経営幹部の採用に乗り気になる→首都圏の人材とマッチングする」。この流れが成功事例となって、プロ人材拠点による首都圏の人材還流のモデルが出来上がりました。

2014年から2017年にプロ人材拠点経由で首都圏から各道府県の企業に転職した人数は2126人にも上ります。この短期間で2000人強です。しかも、マネージャークラス以上の方々ばかりです。引く手あまたのプロ人材に多くの選択肢のなかから選んでもらうには、企業の熱量が必要です。

これだけの実績をつくるには、プロ人材拠点のマネージャーをはじめスタッフの方々による「企業を本気にさせる」という努力がなければ難しかったと思いますし、同時に、地域と首都圏の間にある「距離」のハンディキャップを超えられるインターネットならではの情報拡散力と伝達力がなければ難しかったと思います。まさにアナログな努力とテクノロジーの掛け算によって、地方企業の人材採用における新しい手法を確立できたのではないでしょうか。
(インタビュー/加藤陽之 構成/川口裕樹)
●加瀬澤 良年(かせざわ よしとし)
株式会社ビズリーチ 地方創生支援室 地方創生プロデューサー。2000年、明治大学卒業後、リクルートグループ(現リクルートキャリア)を経て、2011年に株式会社ビズリーチに入社。大手担当法人営業部長、キャリア女性向け転職サイト「ビズリーチ・ウーマン」の責任者を経て、社長室地方創生チーフプロデューサーに就任。各地の企業・自治体の採用に関するコンサルティングを行う。また、経済産業省・内閣府との地方創生プロジェクトをリードするなど2017年度は50以上の国や自治体の施策に協力。

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執筆者: HANJOHANJO編集部 - HANJOHANJO編集者
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