なぜ、日本の〇〇街道は成功しないのか?

2016年11月9日
日々、日本全国を歩く中、地域観光の広報プロモーションツールで目に付くのが「〇〇街道」や「おすすめ観光ルート」です。しかし、それを見て「いいね!ここ行ってみよう」と思うことはほぼ皆無です。日本の「〇〇街道」に象徴される広域連携の形成とブランド化はことごとく上手くいかないのでしょうか。今回はその処方箋を国内でも数少ない成功例に学んでみましょう。

■ 成功例に学ぶ、ブランド化できない広域観光周遊ルートの処方箋

 日々、日本全国を歩く中、地域観光の広報プロモーションツールで目に付くのが「〇〇街道」や「おすすめ観光ルート」です。しかし、それを見て「いいね!ここ行ってみよう」と思うことはほぼ皆無です。
 最も多いのは「そば街道」で全国のそばの産地で見られます。こうした食観光は「B-1グランプリ」に優勝した富士宮やきそばの大ヒットに始まり、その後各地で地域の飲食店情報を集約したパンフレットの作成やイベントやスタンプラリーなどが行われていますが、そこを観光ルートと認識している人はほとんどいないのが現状です。
 街道観光で誰もが知るものといえば、ドイツのロマンチック街道です。南ドイツの古城を巡る350kmの観光ルートで日本からも多くの観光客が訪れます。
 ところで日本には日光から上田まで栃木・群馬・長野三県にまたがる、約320kmを結ぶ「日本ロマンチック街道」と名付けられた観光ルートがありますがご存知でしょうか。残念ながら一般の認知は極めて低く、中山道など旧街道観光が人気の旅行会社にもその名を冠したツアーはありません。
 観光庁は地域の広域観光周遊ルートの形成を支援、中部地方では能登半島を龍の頭に、熊野や伊勢を有す三重県を尾に見立てた9県にまたがる「昇竜道」を形成していますが、いずれも観光ルートとしてブランド化には至っていません。
 戦後、日本の観光のスタイルは30年毎に大きな変遷を遂げてきました。1964年東京五輪開催により整備された交通インフラがもたらした1960年代のマスツーリズム、1990年代バブル崩壊を機にその終焉と同時に次々誕生した新たなツーリズム。そして次の30年、二度目の東京五輪が開催される2020年後に待ち受けるのが地方創生の柱の一つにも数えられる「日本版DMO(地域の稼ぐ力を引き出す、地域観光の推進組織)」の構築と圏域を超えた観光ルートの形成とそのブランド化です。
 すでに地方公共団体レベルでは新たな地域の枠組みとして「連携中枢都市圏」、「定住自立圏」等が形成され、様々な政策分野で都市間連携が始まっています。遠くない未来、地域は再び大合併の波にのまれます。未だ前回の合併のしこりも残り、合併のメリットを生かす地域一体の取り組みに至っていない現状で更なる合併となれば、懸念されるのはそこを拠点とする地場産業の今後です。圏域を越えた連携は今後、民間事業者にも避けて通れない道になるでしょう。

 さて、しかし日本の「〇〇街道」に象徴される広域連携の形成とブランド化はことごとく上手くいかないのでしょうか。今回はその処方箋を国内でも数少ない成功例に学んでみましょう。
 国内の広域観光ルートで成功例として挙げられるものは、近年サイクリングコースとして外国人に人気の「しまなみ海道」や欧米豪のFIT客にターゲットを絞った着地型旅行業で成功した和歌山県田辺市の「熊野古道」の取り組みなど、ごく僅か。中でも国内旅行市場においてビジネスモデルとしてのDMOの構築と観光ルートのブランド化の両面で成功した例は極めて少ないのが現状です。

「北海道ガーデン街道」は十勝、富良野、旭川、大雪に連なる8つのガーデンを結ぶ全長250kmの観光ルートです。2009年それまで個々に活動していた7つの民間有料ガーデンが広域に連携、協議会を設立すると参加施設の入園者数は3年で54%増加。初年度は1社だった団体ツアーの取り扱いも2年目以降は大手旅行代理店がこぞって参入。観光旅行の情報誌の「るるぶ」が新たに北海道ガーデン街道版を刊行する等、一気に注目を集め、人気観光地の仲間入りをしました。

北海道清水町にある「十勝千年の森」メドウ・ガーデン(画像提供:北海道ガーデン街道)

 北海道ガーデン街道が成功した要因は様々ありますが、鳴かず飛ばずの「〇〇街道」との最大の違いはやはりそのブランドマネジメントにあります。まずは北海道ガーデン街道とは何か、コンセプト(誰にどんな価値を提供するか)を明確にしていること、そしてクライテリア(基準)を設けていることです。
 国や行政主導の場合、沿線地域でここは入れてここは入れないということはまずできません。しかし、北海道ガーデン街道では参加するガーデンに関し明確な基準を設けており、優れた造園デザインと園芸技術、北海道らしいガーテンスタイル、民間の有料ガーデンなどに限定しており、数も協議会設立時の7つから2014年に1つを加えたものの、現状これを完成形として今後これ以上の拡大はしない方針です。8つのガーデンにはそれぞれ異なる個性があり、そこを巡り歩いて見たいと思わせる魅力、仕掛けが散りばめられています。

十勝・富良野・旭川・大雪を結ぶ全長250kmを超える広域観光ルート「北海道ガーデン街道」(画像提供:北海道ガーデン街道)

 また、意思決定もシンプルかつスピーディ、議決は参加する有料ガーデンに委ねられ、協議会に参加する観光協会やオフィシャルホテル等に議決権は与えていません。

 北海道ガーデン街道はすでに国内での地位を確立、現在は海外市場への取り込みに力を入れています。

●関連リンク

執筆者: 水津陽子 - 
合同会社フォーティR&C代表、地域活性化・まちづくりコンサルタント。地域資源活かした地域ブランドづくりや観光振興など、地域活性化・まちづくりに関する講演、企画コンサルティング、執筆を行う。2014年地方創生法に関連し衆議院経済産業委員会に参考人出席。著書に「日本人だけが知らないニッポンの観光地」(日経BP社)などがある。

水津陽子新着記事

  • 人口400人の離島が生き残り賭ける「着地型観光」

    兵庫県南あわじ市の離島「沼島」は淡路島の南東、紀伊水道に浮かぶ周囲約9.53kmの小さな島です。かつては「沼島千軒金の島」と称えられるほど繁栄をみましたが、近年は衰退傾向にあります。そんな中、2007年沼島で始まった交流人口拡大による地域活性化の取り組み。沼島の着地型観光は確実に成果を上げつつあります。小さな島の生き残りを賭けた挑戦を追います。

    2018年5月14日

    水津陽子

  • 年間赤字1億の宿を90日で再生! 大手も手つかずの小規模宿再生術/ワールドリゾートオペレーション

    インバウンドブームですが、リゾートホテルや旅館の客室稼働率は低く、旅館は平均で37.1%と低迷。リゾートホテルや旅館の再生を手掛けるワールドリゾートオペレーションの宿再生の取組から地域がこうした状況を打破するには何が必要かを考えます

    2018年3月5日

    水津陽子

  • 2018 観光産業の潮流、押さえておきたい4つの波

    2017年は数字の上ではいざなぎ景気を超える好景気となりました。2018年はどんな年になるのか。今回は、インバウンドをはじめ観光産業において、今年押さえておきたい4つのトレンドをピックアップ。その変化と進化、そして今年起こる新たな波を紹介します

    2018年1月19日

    水津陽子

  • 地域を“アゲる”観光行政、“サゲる”観光行政

    様々な場面で地域間の格差が拡大しています。自治体の規模や財政もさることながら、地域の活性・不活性に直結する地域間競争を勝ち抜く力の差、その基礎となる意識や意欲の面でも差は目に見えるかたちで表れてきています。今回はこの地域観光行政の格差について考えます。

    2017年12月4日

    水津陽子

  • <シリーズ> 陶磁器産業復活のシナリオ(事例・常滑編)

    水津陽子さんがひとつの業界にしぼって徹底取材。その現在と展望を、課題分析編、解決戦略編、具体事例編のパートにわたり深い視点で切り込んでいきます。第1回で取り上げるのは落ち込みの激しい「陶磁器産業」です。Vol.3では常滑の成功事例から復活の道のりを探ります。

    2017年10月19日

    水津陽子

  • <シリーズ> 陶磁器産業復活のシナリオ (解決戦略編)

    シリーズ「十年で6割超の市場を失った陶磁器産業」。Vol.2ではその復活のシナリオを描きます。輸出やインバウンドという千載一遇の好機を目の前にしながら、傍観する姿が目立つ産地や事業者。そこに踏み出せない理由とその突破口は?

    2017年9月5日

    水津陽子

  • <シリーズ> 十年で6割超の市場を失った陶磁器産業 (課題編)

    HANJO HANJO の新シリーズは、コラムでおなじみの水津陽子さんがひとつの業界にしぼって徹底取材。その現在と展望についてを、課題分析編、解決戦略編、具体事例編など複数のパートにわたり深い視点で切り込んでいきます。第1回で取り上げるのは「陶磁器産業」です。

    2017年8月2日

    水津陽子

  • スラムを住みたい街に変えた復興術-ジョンソンタウン編-

    かつてスラム化した街が新たなビジネスモデルで再生。憧れの対象に生まれ変わった街があります。戦後、米軍基地が置かれた埼玉県入間市、多くの米軍ハウスが建設されましたが、その町並みを維持、街区はその世界観を残していた一角での復興の話です。

    2017年7月10日

    水津陽子